短編小説を書いてみた2

大気圏

このガラス板の上での生活に多少慣れてきたものの、私は未だ足元に見える星に帰りたいという思いを捨てきれずにいた。

その様子を見ると、ここの住人は「俺も昔はああだった」と笑ったものだ。

しかし、私には、この薄暗い光の中で延々と暮らす退屈な生活より、あの星の中で、さんさんと輝く太陽の下、公園のベンチに座って子供たちが遊ぶのを眺める生活のほうが、よっぽど楽しいことだと思うのだ。

だからこそ、私はいつまでたっても、その望みを捨てられず暮らしていた。

しかし、真下に見える故郷に帰るためには、超えなければならないたくさんの壁があった。

最も大きい壁は、大気圏に突入しても燃え尽きないほどの強度を持つ素材がここにはないことだ。

例えば、1日に1度やってくる人工衛星だが、これは、一度打ち上げたら役目を終えるまで動き続け、それが終わると大気圏で燃え尽きるよう設計されている破棄型だ。

ここの住人もかつて何度も帰還を夢見たが、ついぞ叶うことはなかった。

昔、この人工衛星を操作して星に突っ込むという計画が考えられたこともあったらしい。

しかし、操作不可能であること、耐久性がゴミであることなどから、仮に突っ込んだら全員死ぬと結論付けられた。

宇宙工学を勉強してきた自分でさえ、そりゃそうだと頷いた。

また、助けを呼ぼうにも連絡手段がないこと、ガラス板の周りはどうやら外部から見えなくなっているらしいこと、なぜかすり抜けることなどの事情があった。

そのうち、挑戦するものもいなくなり、現在に至る。

ここでの生活は単純だった。まずは起床からだ。

起床すると、勝手に移動した分だけ境界に向かって歩くことからはじまる。

ここの住人は、起き出すと、一斉に中央とは逆方向にゾロゾロと歩き出すのだ。

それさえやっていれば、中央に至り星に吸い込まれて燃え尽きるなんてことはないからだ。ガラス板の中央に至るとそこから星に落ちる、と言われている。

私は、それを見たことはなかったが、ここの住人はそう証言していたし、毎朝かなりの距離を勝手に動いていることを考え合わせると、おそらく、本当のことだろう。

毎日やってくる人工衛生はかなり大きくて広かった。

そこには、たくさんの食料が積み込まれており、トイレと水道はずっと可動しているようだ。

私は、この人工衛星で一着の宇宙服を見つけたが、残念ながらこれでは星に帰れない。大気圏の突入に耐えうるほどの耐久性を備えていなかった。あたり前のことかもしれないが、ちょっと期待した自分がバカだった。

また、ガラス板の周りには大気の膜(まく)らしきものが張り巡らされているため、宇宙服は着る必要もなかった。

この膜がどれだけの高さまであるのかはわからないが、その昔、銀河鉄道で行ってしまった身長213センチの大男がジャンプしても膜はあったと言われている。

ただ、こんな場所にも一つだけいいと思えることがあった。

それは、ここの住人である。

ここの住人は、驚くほど精神が安定していて、まるで誰かに選ばれたんじゃないかと思えるような人たちばかりだった。

仮にこのような場所に精神不安を抱えた極悪人が来たら、おそらく、その人を含む全員が全滅していただろう。

こんな場所でも、まともな人間が多いことに、私は、心底助けられていた。

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登場人物

主人公は、アイが銀河鉄道に乗るとき偶然乗り合わせた乗客の一人

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